島の木のはなし

 古くから島の人々に愛されてきた島材には、石垣島の歴史や人々の暮らしが刻まれています。KATARIGIは「語り木」。私たちは、それぞれの樹木にまつわる“史実”から発想をふくらませて、「親から子へ、語り継がれる木の物語」をつくってみようと思いました。

 島の賢人に、樹木の知識や歴史を教えていただき、それを工房のスタッフたちで「物語」にしていく。それは、とても楽しい時間でした。この物語がきっかけとなって、島材に少しでも興味を持っていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。

 

アカギのはなし

旅立ち

 

暑い夏が終わりました。

長雨の季節も過ぎ、めっきり朝晩が肌寒くなった頃です。ある日、見事に晴れあがりました。気持ちのいい青空です。

 

「今日だ!」

「行こう!」

 

サシバの仲間達が動きだしました。

 

ザッ!

出遅れまいと、一羽の若鳥が、住み慣れた木から飛び出しました。

サシバ達は、グルグル回りながら空高く舞い上がり、鷹柱を作ります。

 

「あの谷戸、あんな小さかったっけ。俺、あそこで生まれたんだよな。」

 

それから、一羽ずつ滑り出すように滑空して行きました。

見慣れた田んぼがどんどん遠ざかって行きます。

若鳥には、これが初めての渡りでした。

 

町を超え、山を越え、先日からは島伝いに飛んでいます。見渡しても海ばかり。若鳥は疲れてお腹もペコペコです。

 

一方。

ここは石垣島の於茂登岳です。谷から続く水辺の林縁に、アカギの大木が見えます。

そこへ、とても大きくて美しい翅のアヤハビル(ここではヨナグニサンのこと)が飛んで来ました。

 

「ああ、この木!あたしはアカギで育ったから、ベイビー達にもアカギがいいの。こんなに立派なアカギなら、食べ物に困ることもないはずね。」

 

アヤハビルは、良さげな枝を選んでは、丸いピンク色の卵をひとつひとつ、葉の裏に産み付けていきました。

 

時折、森の中から鳥の鳴き声がします。

 

「はーあ。あいつらの声はいつもドキドキする。」

アヤハビルは、これまでも何度か危ない目に遭いましたが、翅にあるヘビ模様に鳥が驚いて逃げていくので、いつもなんとか乗り切って来れました。だから、「また大丈夫!」そう信じて引き続き卵を産み付けていました。

 

そんな頃、

はるばる旅をしてきたあのサシバ達が、ここ石垣島に到着しました。

大きな山々が連なるこの島は、渡り鳥たちに最適な、旅の中継地点になっています。

 

「ここならゆっくり休めるぞ。」

「獲物がいっぱいいそうだな。」

サシバ達はご機嫌です。

 

若鳥も、上空からあたりを見渡しました。見慣れない木がたくさん生えていますが、ここならいいねぐらも見つかりそうです。

 

そんな時、サシバの目に飛び込んできたのがあの大きなアカギです。

水辺なのでカエルが多そうです。また、それを追ってヘビも来るでしょう。

 

「あそこだ!」

若鳥は羽根をすぼめ、大木に向かって急降下しました。

その途中で一匹の大きなカエルを見つけました。

「ご馳走だ!」

若鳥は、難なくそのカエルを捕まえました。びっくりするくらい動きが遅かったのです。

 

「なんてでっかいカエルなんだ。こんな地べたじゃ落ち着いて食べてられないぞ。そうだ、あの木の枝でゆっくり食べよう。」

若鳥はやっとのことでその大きなカエルをアカギの枝に運び上げ、久しぶりに食事を堪能しては、「いい島じゃないか。」と、満足そうです。

 

 

サシバがふと下の方を眺めると、赤いヘビがこちらを向いています。

「ん?珍しい色のヘビだな。」と思い、地面に降りてよく見ると、そのヘビはペラペラでした。

「なんだこれ、ヘビじゃないのか?虫か。また次の獲物かと思ったのにこんなペラペラじゃどうにもなんないな。」

まだ息があるようで、わずかに赤い翅が動いています。

大好物のヘビじゃなくてがっかりだったけど、もうとっくにお腹もいっぱいだったので、若鳥はまたさっきの枝に戻りました。

 

卵を産み切ってすっかり弱り、地面に横たわっていたアヤハビルは、大きな鳥の出現に本当にびっくりしましたが、もう体は思うように動きませんでした。

「どうやら食べられなかったみたい…。でもあたしはベイビー達が無事ならいいよ。世の中怖いね。ヘビが怖くない、こんな素早い大きな鳥もいるんだね。どうか気を付けて立派な蛾になるんだよ…。」

アヤハビルはそう言って、天国へと旅立っていきました。

 

若鳥の方と言えば。

動かなくなったペラペラヘビのことなんかすっかり忘れて、

「この島に残るのも案外いいかもなぁ。」

なんてのんきに考えていたのでした。

                                

 

イヌマキのはなし

ピーサーの冒険

この日、イシガキヒヨドリのピーサーは大人の仲間入りをするため、たった一人で木の実を探しに行く旅に出ました。

お母さんに教えてもらった甘くて美味しいというイヌマキの実を見つけるために一生懸命森を飛び回ります。

 

しかし、やっと見つけたイヌマキの木には実がなっていませんでした。

ピーサーはイヌマキにたずねました。

 

「イヌマキさんイヌマキさん、どうしてあなたには実がなっていないの?」

イヌマキは答えます。

「やあ、ピーサーの坊や。それはね、僕がオスのイヌマキだからだよ。」

「オスのイヌマキ?」

「見てごらん。ぼくには人間の男にある力こぶのようなデコボコがあるだろう。これがオスのイヌマキの証拠さ。だからぼくは花が咲かせられないし、実や種、つまり赤ちゃんが出来ないんだよ。」

ピーサーは納得しました。

「そうか。イヌマキさんは僕みたいに男の子だから実が出来ないんだね。」

ピーサーはオスのイヌマキにお礼を言って、メスのイヌマキを探すことにしました。

 

次に見つけたイヌマキの木には美味しそうな赤い実が沢山なっていました。

ピーサーは尋ねます。

「イヌマキさん、イヌマキさん、もしかしてあなたはメスのイヌマキさんですか?」

イヌマキは答えました。

「そうよ、ピーサーの坊や。私はメスのイヌマキ。その証拠に私のお肌は滑らかで綺麗でしょう?」

メスのイヌマキはオスのようにデコボコがなく綺麗な木肌をしていました。

「本当だね!イヌマキさん、お願いがあります。あなたの木の実をぼくに分けてもらえませんか?」

ピーサーは大事な実を分けてほしいとお願いしました。

「もちろんどうぞ。でも、一つお願いがあるの。私の赤い実には下に緑色の種がついているでしょう?それをどこか離れたところに落としてくれないかしら?そうしてくれれば、私の子どもが芽を出すことが出来るわ。」

イヌマキは実をあげる代わりに種を運んでほしいと頼みました。

「そんなことならお安い御用だよ。」

ピーサーは答えました。

「ありがとう坊や。くれぐれも緑の種は食べたらだめよ。毒が入っているからね。人間の子どもたちがおやつによく私たちの実を食べに来るから、種まで食べられてしまわないようにしているのよ。」

イヌマキは種を守るために工夫をしていたのです。

「分かったよイヌマキさん。おいしい木の実をありがとう。」

ピーサーはイヌマキにお礼を言って、実をおなか一杯食べ、あちこちに種を落としていきました。

こうして種はあちこちで芽を出し、イヌマキの子どもたちはすくすくと成長していきました。

 

カラスザンショウはなし

ひい爺さんの物語

「じーじー!じーじー!お風呂まだでちゅか~?」

 

くもりガラスの向こうから、ひ孫のあかりが可愛い声で呼んでくれたので、チョーゲンはざぶんと飛び起きた。湯船でうっかり眠ってしまったようだった。

 

「あがや~、お湯が気持ち良すぎてじーちゃんはニーブイしてたさぁ。起こしてくれてありがとうねぇ。」

 

とチョーゲンはそう答えながら、さっき夢でちらりと見た、昔のことを思い出していた。

そうだ、あれはチョーゲンがまだ小学校へ行き始めた頃。

近所のにーにー達が、穴の無いドラム缶が手に入ったというので、それで五右衛門風呂を作ろうとわいわいやっていたのをフージィ(ひい爺さん)と眺めていたのだった。

「火を焚くから誰か薪を持ってこーい!」

「おっと、缶が熱くなったら立っておられんぞ!なんでもいいから板きれを持ってこーい。」

若者たちの段取りがあまりに悪いので、見かねたフージィが、

「五右衛門風呂の底板にはアンギ(カラスザンショウ)がいいさぁ、削りやすいし軽くてよく浮くからなー。」と、にーにー達に教えてやっていた。

こうやって散歩している時もいろんな話をよくしてくれていたので、「フージィはなんでも知ってるなー。」と、チョーゲンはいつもまぶしい気持ちで曽祖父を見上げていたのだった。

 

 

風呂から上がり、あかりをひざの上に乗せてビールを飲むのが隠居生活での目下の楽しみだ。

あかりが持っているのは本島の水族館で買ってきたというマナティのぬいぐるみで、寝る時も全く放さないのでよほど気に入っているのだろう。

チョーゲンはしわしわのごつい手であかりの頭をなでながらそのぬいぐるみを見て、フージィから聞いたザン(ジュゴン)の話を思い出していた。

 

フージィの幼い頃は、石垣島でもまだ見られたザンだが、フージィのホッパ(祖母)の時代に人頭税で捕られすぎて、その数が減ってきていたらしい。

フージィのホッパは、「ザンは人魚さぁ、やさしく扱わないと村に大波が来るからよー。」といつも言うので、村でザンの肉が手に入った時は、その話を思い出しては波が来ないかといつもびくびくしていたそうだ。

 


そう言えば昔、チョーゲンもザンのような生き物を海で一瞬だけ見かけたことがあった。

あれはまだ自分が十二、三歳で、フージィが亡くなって2年ほどした頃。大きなアンギの板を海に浮かべてヤマングー仲間と波遊びをしていた。

誰よりも早くリーフまで漕ぎ出したら一番という遊びをしていて、みんな必死に腹ばいで漕いでいたその時、左目の端で白い大きな物体が通り過ぎるのが見えたのだ。大きなヒレのようなものが動いたのだけは、はっきりと覚えている。

当時はまだ、集落の前の浜は埋め立てられておらず、細長い藻が沢山生えていた。たまにザンが出るらしいと聞いたことはあったが、仲間の誰も見たことがない。

「ザンだ!」

チョーゲンは興奮してアンギの板から起き上がって周囲を見渡したが、その白い物体はもう見えなかった。

そのせいで競争は一番ビリになり、集落までの帰り道ではみんなの板を持たされたのだった。

 

今ではその浜も埋め立てられて、島一番の繁華街が出来ている。ザンなど見られるはずもない。

チョーゲンはぬいぐるみを指差しながら、

「この島にも、前はこんな生き物がいっぱいいたわけさぁ。じーちゃん、あかりにも見せたかったさぁ。」

とあかりに言い、またビールをぐびりと飲んだ。

それから、きらきらした目で自分を見上げるあかりを見て、

「もう少し長生きしないとな。」

とつぶやいて、あかりの頭をぽんとなでたのだった。

ギランイヌビワのはなし

 

ホテルアハカブリ

ホテルアハカブリには今日もわけありのお客さんたちがやって来ます。

「おい、おまえょ~せっかくの新婚旅行なんだからいい加減機嫌を直しておくれよ~」

「誰のせいで怒っていると思っているのよ。あの有名なヤールー旅館に泊まることを楽しみにしていたのに、まさか予約を忘れているなんて。あんたにはがっかりよ!」

どうやらこのハブの新婚夫婦、今晩泊まる宿を探しているようです。

そんな時、旦那さんの目にこんな看板が飛び込んできました。

「“ホテルアハカブリ。この先でクイナの足で300歩”・・・?」

「それならすぐ近くじゃない。ひとまず行ってみましょう!」

ハブの夫婦は矢印の方向に森の中を進んでいきます。すると大きな木の前にたどり着きました。

木からは背の高い根っこがいくつも張り巡らされ、根っこの間は仕切られた部屋のようになっています。

「ようこそ、ホテルアハカブリへ。」

大きな木は笑顔で言いました。

「今晩泊めて頂けないでしょうか?」

ハブの夫婦は尋ねます。

「もちろん大歓迎よ。素敵なハブのご夫婦にはキノコのスイートルームをご用意するわ。」

キノコのクッションが敷き詰められたフカフカの部屋で一晩を過ごしたハブの夫婦は満足そうに帰っていきました。

 

その翌日、ホテルアハカブリの前には1匹のオオコウモリが倒れていました。

「オオコウモリさん、こんなに痩せてしまって。一体どうなさったの??」

木がたずねると、オオコウモリは力を振り絞って答えます。

「最近おいらの縄張りに新しく体の大きな奴が引っ越してきて・・・餌を全部横取りしていくんだ・・・そのせいで何も食べられない日が続いて・・・」

「まあ、そうだったのね。お気の毒に。ではぜひこのホテルアハカブリに泊っていらして。ディナーには私の実をたんとご馳走するわ。」

「それはありがとう。では一晩お世話になるとするよ。」

こうして、オオコウモリはアハカブリの実をおなかいっぱい食べ、元気いっぱい飛び立っていきました。

 

ある大嵐の日、1人の人間が森の中をさ迷い歩いています。

「たしかこの森を抜ければナグラと呼ばれる集落に着くはずなんだが・・・くッ、嵐がひどくて前が見えない・・・。」

このままでは風邪をひいてしまいそうなほどびしょ濡れになっている男を見て不便に思ったアハカブリは、周りの木々たちにお願いして男をホテルに誘導します。

「なんだか急に道が開けたぞ。よしこちらに進んでみよう・・・。」

男は無事にホテルアハカブリにたどり着きます。

アハカブリは男に声を掛けますが、残念ながら木や動物の声は人間には聞こえないようです。

「おお!なんと立派な木なんだ。このしっかりと張った根はまるで家のように頑丈ではないか。」

アハカブリはとても嬉しい気分になりました。

「よし、では今晩はここで一休みするとしよう。おお、雨風が凌げるし、木の葉のクッションも敷き詰めてあるので寝心地も最高だ。」

アハカブリのしっかり張った根っこのおかげで、男は体を休めることが出来たようです。アハカブリは隣のクワズイモから葉をもらい、男にそっとかけてあげました。

翌朝、男が目を覚ますと、そばに木の実や果物やらが沢山落ちています。そう、もちろんこれもアハカブリが用意したもの。

「ニーファイユー、ニーファイユー。なんと美味しい木の実に果物。これで今日は元気に森を抜けられそうだ。」

男は空を仰ぎこう言います。

「ニーファイユー森よ。自然よ。君たちにはとても助けられたよ。これからも一緒に仲良く生きていこう。」

アハカブリはそよそよと葉を揺らし、返事をします。そうしてしばらくすると、男は旅立っていきました。

わけありのお客さんのため、今日もホテルアハカブリは大忙しです。

シマグワのはなし

 

やさしい魔女がいた村

「このシマグワの木にはね、こんなお話があるんだよ」

村の小高い丘の上にある一本の立派なシマグワの木の下で、おばあさんは2人の孫たちに語ります。

「えー?どんなお話?冒険のおはなし?」

「知りたい知りたいー!」

「そうかそうか、、じゃあ今日はやさしい魔女と村人たちのお話を聞かせてあげよう・・・。」

 

 

今から何百年も前のこと、この森には薄茶色の長い髪をした魔女が住んでいました。

なんと魔女は7回生まれ変わったといううわさがあり、人々は彼女をナネーズと呼んでいました。

ナネーズの側にはいつもマンムシィという名の真っ白くてモコモコした羽の生えた生き物がいました。

マンムシィは真っ白な糸を体から出すことが出来ました。

ナネーズはその糸を村人たちに与え、いつしか村人たちはその糸を紡いで布を織ることを生業とするようになりました。

マンムシィの糸を使って織られた布は真っ白で真珠のように輝き、たいそう柔らかい肌触りです。またたく間にうわさが広がり、となりの国の王様の家来がわざわざ買いに来るほど人気がありました。

 

ナネーズとマンムシィのおかげで村人たちは程よく豊かでとても平和な生活が出来ておりました。

村の子どもたちはナネーズのことが大好きで、暇さえあれば魔女の国のお話を聞くために彼女の家を訪ねていきました。

ナネーズは子どもたちが来ると決まって甘酸っぱい赤い実のジャムをたっぷりのせたスコーンと、どんな病気もたちまち良くなるという魔法の葉っぱを煮出したお茶でもてなします。

 

そんな平和な村を、ある日突然大きな嵐が襲いました。

今にも家や家畜小屋をなぎ倒さんばかりの勢いです。

すでに村の入り口にある橋は飛ばされ、川に流されてしまいました。

ナネーズとマンムシィは村を守るために魔法で村全体を大きな大きな盾でおおいました。

嵐は3日3晩続き、その間ナネーズとマンムシィはずっと魔法を使い続けていました。

途中で何度も力尽きそうになりましたが、2人は村人たちのため一生懸命盾を守り続けました。

 

そうして4日目の朝ようやく嵐は過ぎ去り、ナネーズたちが大きな盾で村を守り続けてくれたおかげで、村人たちは誰一人としてケガをすることなく、家も畑も、家畜たちも無事でした。

 

村人たちはお礼を言うため、村はずれにあるナネーズの家を訪ねます。

ところがいくら家の前でナネーズを呼んでも中から返事がありません。

不思議に思った村人たちが家に入ると、そこには床に横たわるナネーズとマンムシィがいました。

 

そう、二人は魔法の力を使い続けたために、力尽きて死んでしまったのです。

2人はとても穏やかな顔をしており、ナネーズの薄茶色だった長い髪はなぜだかツヤツヤの濃い茶色に輝いていました。

村人たちはたいそう悲しみ、みな声をあげてわんわん泣きました。

村人たちのことをいつも支え見守っていてくれた2人の存在は村人たちにとって、とても大きなものでした。

 

村人たちはせめてもの恩返しと、村の一番見晴らしの良い場所に2人のお墓を作りました。

それから1年がたったころ、ナネーズとマンムシィのお墓からは芽が出てその芽はいつのまにか大きく成長し、立派なシマグワの木となりました。

 

 

「・・・そうして、ナネーズとマンムシィのお話は村の大人たちから子どもたちへ伝えられ、またその子どもたち、孫たちへと代々語り継がれていきましたとさ・・・。おやおや、お話の途中で寝てしまったようだね。」

 

二人のかわいらしい寝顔を見守るように、そよそよと風が吹き、1匹の蚕がふわりと空を飛んでいました。

 

センダンのはなし

シンダンギーのリスト

むかしあるところに、シンダンギーという名前の女の子がいました。

シンダンギーのお家の庭には、1本の木が植えられていました。

「あなたが将来お嫁にいくときに、この木で箪笥を作って花嫁道具として持たせるわよ。」

とお母さんはよく言っていました。

シンダンギーの体には、独特の匂いがあり、そのにおいを好まない人は決して近づこうとはしませんでした。

シンダンギーは成人を迎える前に、海の外へ旅に行ってしまいました。

そして色々な国をめぐりました。

見たこともない文化に触れ、聞いた事もない言葉を覚えました。

そして色々な国をめぐりめぐって、自分でもやりきったと感じられたのち、長年帰れなかった故郷に戻ってきました。

ふと気づくと、シンダンギーは子供も産めないほど年をとってしまいました。

しかし、後悔の気持ちはこれっぽっちもありませんでした。

シンダンギーは水をよく飲み、虫の寄ってこない体質をしていたので、衣服を扱う仕事につきました。

みんなが普段着る服から、ハレの日のための大切な服まで、いろいろな服を扱いました。

いろんな人の笑顔にふれ、いろんな人の人生の節目に立会いました。

その後、シンダンギーが死んでしまった後も、お家に植えられていた木はどんどん成長して大きくなっていきました。

人々は、その木を「シンダンギー」と呼ぶようになりました。

​まってておひさま!

ソウシジュのはなし

 

季節は春。

サンゴ礁広がる八重山の海。

一匹の魚が躍るように泳いでいました。

 

その魚の名前はピニィ(ひげ)

黄色の斑点模様と、名前のとおり、やわらかくて細長いヒレが自慢です。

 

そのヒレに太陽の光が当たると

きらきらとするのが嬉しくて

日向ぼっこに出かけるのが好きでした。

 

お気に入りのテーブルサンゴの上できらきらと泳ぎます。

「ここは光がよくあたる。さぁ僕の体を見ておくれよ!」

自慢のヒレを揺らします。

 

「ごきげんようピニィ。今日は雲ひとつないおかげで、たくさんの光を君に届けられる」

お日様もピニィが大好きでした。

 

ピニィはもっともっとお日様に近づきたくて空を見上げました。

すると立派に育った大木が見えました。

胸を張って伸びる太い枝は青空によく映えて

お日様の光をいっぱい浴びているようにみえました。

 

「僕のあの木のようになりたいけれど、魚の僕がどうしたらいいものか」

 

満月の夜、海へ卵を産みにやってくる物知りのオカガニさんに、ピニィは会いに行きました。

 

「オカガニさん、僕はもっとお日様に近づきたい。

木になりたいんだ!どうしたらいいだろう」

 

「やぁピニィ、そんなの簡単さ!

夏至南風(カーチバイ)の強い風にのって空にいくのさ。

ぐるっと天の川を泳いでこれば、願いがかなう。きみはきっと木になれる!」

 

梅雨が明け、青空が広がり

オカガニさんの言っていたカーチバイが吹く季節がやってきました。

新月の夜。ぴゅーぴゅーと吹き続ける南風の流れに乗って、

ピニィは飛び上がりました!

 

とんだ!

 

星の間をすりぬけて、ぐんぐんいくぞ、とまらない!

ざぶんと天の川に飛び込んだ!なんて気持ちがいいんだろう。

「よくきたねピニィ!」

どっかのだれかがいいました。

「君を木にしてあげる!」

 

種になったピニィは流れ星に乗って、あの大木の横に辿り着きました。

 

やがて根を張り、

細長くやわらかい葉が青々をと。

可愛い小さな黄色の花を咲かす木になりました。

 

「魚の君もいいけれど、木になった君も素敵だね」

お日様がいいました。

 

ピニィはたくさんの光を浴びて。

お日様もたくさんの光を届けて。

二人はとっても嬉しそう!

 

 

お月様がまんまると太った夜のこと。

卵を産み終えたオカガニたちが浜でお話しています。

 

「このソウシジュの木は、昔、魚だったんだよ。とてもきれいなヒレを・・・」

「おばあちゃん、またその話を始めるの?」

 

オカガニのおばあちゃんは嬉しそうに微笑み、ゆっくり話しはじめました。

 

タイワンオガタマノキのはなし

ショウキチとドゥスヌの木

鍛冶屋の家に生まれた次男坊ショウキチは、小さいときから家の天井に見える1本の梁が気になっていた。

他にも梁は沢山あるのに、なぜか妙にその1本が気になるのだ。

近所の木工所の息子であるニィニィに聞いてみると、その木はどうやら「ドゥスヌ」というらしい。

そのドゥスヌは他の木とさして変わらない見た目をしているのだが、ショウキチには黄金色にキラキラと光って見えることがあった。

ニィニィに話すと、確かにドゥスヌは磨けば木目が黄金色に輝いて見えると教えてくれた。

家族と川の字になって寝るとき、決まってショウキチはドゥスヌの真下を選ぶ。

寝る前にドゥスヌをぼーっと眺めるのが日課だった。

以前母からドゥスヌは死んだ女の目から生えてきたという言い伝えがあるんだよ、なんて脅かされたことがありそれ以来その話を思い出しては怖くなったが、いつの間にかそんなことも忘れてしまっていたようだった。

 

戦後間もないこの頃、八重山ではマラリアが蔓延し、多くの人々が苦しんでいた。

そんなショウキチも6歳のころマラリアを発症し、九死に一生を得たことがある。

その後遺症で10歳になった今でも左足を少し引きずるようにして歩くが、当の本人はさして気にもしていないようだった。

 

ショウキチは木工所のニィニィと一緒に山に入り、色々な遊びを教えてもらうことがたまらなく好きだった。

山刀を腰に差し、縦横無尽に山を駆け巡る。このとき、自分は何でも出来るような気分になるのだ。

山刀でヤブツバキの枝の太いところを伐り落とし、コマをつくる。

ガラスの破片で削りながら形を整え、最後にクギを刺して軸を作れば完成だ。

そのコマでニィニィと勝負するのだが勝ったためしがなかった。

同年代の子どもには負け知らずのショウキチもベテランのヤマングーにはかなわなかった。

小腹がすくと大好物のヤマモモやイタジイの実を食べ、また山の中を駆け回る。

毎日毎日山に入っても飽きることはなく、この時間が永遠に続くような気さえしていた。

しかし、そんな日々は長くは続かなかった。

 

ある時、ショウキチたちがいつも遊びに行く山に大きなトラックが何台もやってきて、大きくて物々しい機械が沢山運び込まれてきた。

ショウキチはこれから何が始まるのか皆目見当もつかなかったが、ニィニィは「どこかの製紙会社だとかが紙を作るためにマツを伐りに来たんだよ」と言った。

これまで人の手で木を伐り村まで運んでいく作業はよく目にしていたが、あんなに大きな機械を使って木を吊り上げ、運んでいくのは見たことがなかった。

ただ日に日に丸坊主になっていく山肌を見守ることしかできなかった。

そしてある日、マツだけでなくドゥスヌも伐られていくのを目にしたショウキチはひどく驚いた。

ニィニィは「ドゥスヌは堅くて上等な木さ。建築材にしたりで色々と使えるんだろう。」といった。

 

気が付けばショウキチとニィニィが遊んでいた山はすっかり変わり果てた姿になってしまった。

昔のような姿は見る影もない。

ニィニィが他の島の木工所で働くために島を離れると聞いたのもちょうどその頃だった。

 

出発する前、ニィニィはドゥスヌが大和言葉でタイワンオガタマノキと呼ばれていることを教えてくれた。ショウキチは初めて耳にするタイワンという国の場所を地図で確認し、いつかきっと行ってみようと思った。

タブノキのはなし

 

タルーとカマドゥ

とぅぬすく村のタルーとカマドゥは、お互いの家がとなりどうしなので、いつも仲良く遊んでおりました。

おさない頃は家(ヤー)の裏でおままごとや虫取りをしました。

少し大きくなるとヒージャーの餌集めやバンナーへの薪取りなども一緒に行きました。薪は重くて大変だけど、これらはみんな子どもの仕事でした。

 

山へ行くとき、タルーは鎌を持って少し先をがしがし歩きます。ハブが出たってやっつける気満々です。後ろからてくてく歩いて来るカマドゥはおいしい木の実をみつけるのがとても上手でした。

 

ふたりは、下り坂の途中にある大きなタブノキの下でよくナカユクイしました。村まであとひとふんばりあるこの坂からの眺めは、島を囲む空や海がよく見えて、ふたりのお気に入りの場所でした。

今日も、タルーとカマドゥがタブノキの下で一息入れていると、二頭の蝶がじゃれあうようにくるくる飛んでいるのがみえました。蝶は、お日さまの光をうけて、時折翅の青いところが透きとおるように輝きます。

「きれいな蝶だなー。」

「だあるねー。」

ふたりはうっとりしてつぶやきました。

カマドゥは、「大きくなったらあんなお嫁さんになりたいなあ」といいました。

タルーはそんなことを考えたことがなかったのでよくわかりませんでしたが、カマドゥだったらきっときれいなお嫁さんになるなー、とぼんやり思いました。

 

そのうちふたりは年頃になり、気恥ずかしさもあっていつしか一緒に遊ばなくなっていました。

ある日、タルーが裏で畑仕事をしていると、となりの敷地のセンダンの木がぐらぐらとして倒れていくのがみえました。見るとカマドゥのおやじさん達が木を取り囲んでいます。

「やっと大きくなったのに」 と、タルーは思いました。

 

台所のそばを通ると、タルーの母親が姑にカマドゥの嫁入りが決まったようだと話しているところでした。目差主に見初められたので、庭のセンダンで嫁入り道具をこしらえるというのです。

タルーは雷に打たれたような気持ちになり、頭の中が真っ白になりました。

「カマドゥが嫁に…」

タルーはたまらなくなって思わず走り出していました。走って走って、気がつくといつもカマドゥと一緒にナカユクイしたタブノキの下に立っていました。

 

タルーはこのところ、きれいになったカマドゥを見てはどぎまぎしていました。知らぬ間に顔が熱くなるのでカマドゥがこっちを向く前にそっぽを向いてしまっていたのでした。タルーはカマドゥが好きだったのです。

 

タルーの目から涙がぽろぽろこぼれ、ぽたりぽたりとタブノキに落ちていきます。

この頃は、親が嫁ぎ先を決めるので、子はしたがう他ありません。

ひとしきり泣いたあと、タルーはタブノキに何やら話しかけ、それから太い枝を一本もらいました。この枝で香箱をこしらえ、カマドゥに渡そうと思ったのです。

こぶしを握り締めて大木を見上げるタルーの周りには、二頭の蝶がくるくるとただ静かに舞っているのでした。

 

テリハボクのはなし

​ヤラブの思い

遠い南の島の静かな夜どこからか声が聞こえます。耳をすませて聞いてみましょう。

「いいかい?ぼうや、何度も話したけど、たどり着いたその場所でしっかりと根を張るんだよ。どんなに強い風にも嵐にも負けずに踏ん張っていられるように。」

「うん、わかったよ。」

月明かりに照らされキラキラと葉を輝かせたテリハボクのぼうやが旅に出るようです。

ぼうやはわくわくして、お母さんの話が耳に入っていない様子。大丈夫なのでしょうか?

 

ザザ~ッ波に乗せられぼうやは旅立ちます。

「ぼうや~ 辛いときや悲しいときは楽しいことを思い浮かべて、

いつも気持ちを明るく持つんだよ~!!」

「わかったよ~ お母さん!それじゃあいってくるね~!!」

お母さんの話はしっかりと心にしまいました。

まぶしいおひさまの光で目が覚めました。

たどり着いたのは高い山のある島でした。

「あの山の上に行きたいな~。」と山を見上げていると、

「木の実だ~」と、鳥たちが集まってきました。

「鳥さん、ぼくあの山へ行きたいんだけど運んでもらえない??」

「ヤラブの実はおいしくないからね~」

「みんな~あっちにおいしい実が沢山あるってよ~」

鳥たちに放り投げられぼうやはみんなの足にぶつかりコロコロコロ

「うわ~~目が回る~~」  コロン  「やっととまった~」

「おや?ちびすけ、どこから来たんだ?」

「ぼく、海を渡ってきたんだ。あの高い山のてっぺんに行きたくて」

「山の上? わはははは」「鳥が運んでくれなきゃ行けないさ。」

海沿いの並木道の立派な木々達が言いました。

「おまえさん、ヤラブだろ?」

「違うよ、ぼくテリハボクだよ?」

「テリハボク?この島じゃおまえさんはヤラブって呼ばれるんだよ。」

「ヤラブ?」

「ヤラブの実はおいしくないから鳥たちは運んでくれないさ」

ぼうやは悲しくなりましたが、お母さんの言葉を思い出しました。

「辛いときや悲しいときは楽しいことを思い浮かべる」

ぼうやは山のてっぺんから見る景色を想像しました。

「きっとすごく気持ちがいいだろうな~。」

それから何十年もたち、しっかりと根を張り強い風にも嵐にも負けず、ぼうやはりっぱな大木に育ちました。

ある日、村で家を造ることになり、1人のユイピトゥがりっぱに育ったぼうやをみつけました。

「こりゃぁ福を沢山呼びそうな立派なヤラブの木だ。これで造れば立派な家具ができるなぁ~」

りっぱに育ったぼうやを使うことに決まり木バキ人がやってきた時、ぼうやが聞きました。

「木バキ人のおじぃ、わしはいつかあの山のてっぺんから子供のころ旅してきた海を眺めてみたいとずっと思ってたんじゃが、その夢叶うだろうか?」

「そうだなぁ~、ずーっと思ってた夢なんだったら叶わないはずないだろうよ。」

そうして立派に育ったぼうやは立派な家の立派な家具として生まれ変わりました。

ある日木バキ人のおじぃが木材を探しに山のてっぺんまでやってきました。

一仕事終えおじぃは木陰に腰をおろし一休みするところでした。

風が爽やかできもちのいい昼下がり、ギリギリヤで作ったお弁当箱に向かってこう言いました。

「な?言っただろ、ずーっと思っていた夢なら必ず叶うんだよ。

ほら、お前さんが見たがってた景色、子どもの頃渡った海を山のてっぺんから見た気分はどうだい?」

ぼうやはなんて言ったでしょうね?ぼうやの声が聞こえましたか?

 

​鬼の下駄屋

ハマセンダンのはなし

むかしむかしの石垣島。鬼が暮らすひとつの村がありました。

 

人間たちと同じように

家を建て、畑を耕したり、ご飯を作ったり、

それぞれの仕事をして、のんびりと生活していました。

 

お店もたくさんありました。

着物屋・八百屋・魚屋・鍛冶屋・・

 

大きなガジュマルの隣には

「ガジューの下駄屋」がありました。

 

ガジューの体は緑色。

きっとお茶の飲みすぎです。

木が大好きなガジューは、毎日山に出かけては、いろんな葉っぱをお茶にしていましたから。

 

緑色の鬼は他にはいないから、

「気持ち悪い!」と言って誰も近づきません。

お店はいつもガラガラでした。

買っていくのは、隣のガジュマルに住むキジムナーだけ。

「君が作る下駄は軽くて丈夫で上等だ!」とほめてくれました。

 

 

ある日のこと、人間のおばあちゃんと小さな男の子が尋ねてきました。

男の子はおんぶされています。

 

「ごめんください。この子の下駄を作ってくれますか?」

 

ガジューはびっくりして

「あ、あなたは私が気持ち悪くないのですか?」

 

「気持ち悪いなんてとんでもないよ!

とっても綺麗な緑色。この立派なガジュマルのようですよ」

 

この体を褒めてくれたのは初めてでした。

 

「実は、この子が海岸でウニを踏んでしまってね。ひどく痛がって。

それから外が怖いって聞かない。

やまんぐーだったこの子が、今ではめそめそ家で泣いてばかり。

 だから、立派な下駄を作ってあげることにしたんだよ。

 ウニを踏んでも痛くないし、元気が出てくるでしょ!」

 

「どこで下駄を買えばいいのか悩んでいたら

庭のガジュマルにいたキジムナーの履いていた下駄がとっても美しくて。

ここを教えてもらったんだよ。」

 

ガジューははりきりました!

おばぁは店で待ってもらい、さっそく山へ出かけます。

「この子にも見せてあげてくださいな」そう頼まれて

ガジューは男の子をおんぶしました。

 

「歩くのが怖いの?」

「うん・・また痛いもの踏むのが怖いんだもん・・。」

「鬼は怖くないの?」

「おばぁがいつも言ってる。鬼はかしこくて優しいんだって。」

 

ガジューは照れくさそうにしながら言いました。

「ここは落ち葉がふさふさだから痛くないよ。」

「本当だ、気持ちがいいね!」

「ここにはハマセンダンという木があるんだ」

「実がお花みたいな形をしていて、とっても可愛いよ。

今の時期、秋になると、赤や黄色に葉を染める。

そんな木は、島にほとんど無いから、すぐに見つけられるよ。」

 

「あ、この木?」男の子が指をさしました。

 

目の前には立派なハマセンダンの木がたっていました。

葉っぱは綺麗な赤色に染まっていました。

「この木が下駄には上等さ!」一本の太い枝を切り落とし、もって帰りました。

 

その夜、ガジューは思いを込めて、

初めてできた友達の足にぴったりな下駄を作りました。

 

翌朝、下駄を見た子供はびっくり!

とっても喜んで、カランコロンと音をたてて歩きました。

 

おばぁが沢山の塩せんべいを持ってきてくれました。

「おかげで元気になりました。本当にありがとうございました。」

嬉しくて美味しくて。ガジューは幸せでした。

 

「ガジューが素敵な下駄を作ってくれたんだよ!」

愉快な音を立てて歩く子供の姿を見て、お客さんが少しずつ増えてきました。

 

ガジューは遊びに来てくれた子供たちに、

優しく下駄の作り方を教えました。          

「僕も自分で下駄を作れるようになるぞ!」「わたしも!」

 

また次の秋がくるころには、子供たちは自分たちで山に入り。

ハマセンダンの木を見つけ、お気に入りの下駄を作るようになりました

フクギのはなし

​大きなフクギ

 

むかしむかし、島が出来たばかりで草木の住み分けもなかったころのお話です。

草木たちは我先に良い場所に根を張って住もうと、争っていました。

気持ちの優しい真面目なフクギは他の木たちをなだめようとしますが、皆聞く耳を持ちません。

そんな様子を見かねた神様は草木を呼びつけます。

真面目なフクギは真っ先に神様のもとへ出向いたので良い場所をもらうことが出来ました。

「お前は人間の屋敷の周りに住み、風と火から人間たちを守ってあげなさい。その代わりおまえの背は真っすぐ高く、火や台風にも負けない厚い葉をたくさんつけてあげよう。」

こうしてフクギは神様から重要な役割を命じられました。

 

それから数十年した頃、フクギはある家族の家に植えられました。

家族は決して裕福ではありませんでしたが、助け合いながらつつましく暮らしておりました。

 

フクギはいつしか末っ子のニオーの成長を見守るのが日課となっていました。

幼い頃は体の弱かったニオーも、いつのまにか元気なわんぱく小僧。

裸足で庭を駆け回り、疲れるとフクギの下でひとやすみです。

フクギはニオーと過ごす時間がとても幸せでした。

「フクギのおじぃ、おいらはおなかがすいちゃったよ」

するとフクギはその実を枝から切り離して分けてやります。

コツン。

「いてっ。今頭に何か当たったぞ。おや、おじぃの実を分けてくれるのかい?ありがとうな。」

ニオーはそれほど美味しくないフクギの実があまり好きではなかったけれど、フクギの優しさを感じながら勿体なさそうに頬張りました。

「のどが渇いたから水をもらうよ」

フクギはその葉の生え方から雨水を集めるのにとても便利だったので、どの家庭でも幹を伝う水を集めてカメに貯めていました。

 

数年たってニオーは立派な青年になり、染め物職人として働き始めました。

ある日親方に言われます。

「琉球王朝に献上する布を染めるためにフクギの皮を集めてこい。そういやお前の家に立派なフクギの木があっただろう。」

ニオーは悩みます。家に帰りフクギを前にして言いました。

「フクギのおじぃ。おいらにはおじぃの皮をはぐなんてできねえや。代わりに沢山ついているその葉をもらっていくよ。」

フクギの染料は葉からも取ることが出来ます。しかしそれを聞いたフクギは自ら皮をぼろぼろと剥がし始めました。

「おじぃ、やめてくれよ。そんなことしたらおじぃが枯れちまう。」

フクギはニオーの笑顔が見られれば満足でした。

 

ある日、ニオーは笑顔のかわいらしい娘を連れてきました。

「フクギのおじぃ、おいら嫁をもらうことになったよ。来月に祝言をあげるんだ。」

フクギはとても喜び、葉をわさわさと揺らしました。

しばらくして2人にはかわいらしい女の子が生まれ、フクギは幸せそうに家族を見守っていました。

そんなある日、隣の家で火事が起きました。火はごうごうと燃え盛り、いくら水をかけても消えません。

このままではニオーの家にまで燃え移ってしまう・・・

ニオーの家と隣の家の間にはあのフクギの木があるだけです。

火はとうとうフクギへ燃え移りました。

「あぁ、フクギのおじぃが燃えている。」

フクギはなんとか自分が火を食い止めようと必死です。

その分厚い葉のおかげでなかなか燃えつきません。

そのすきに集まった人たちの力を借りて、すんでのところで火を消すことが出来ました。

フクギは燃え落ち、残ったのは根元のわずかな部分だけです。

それでもニオーの家族と家を守ることができたフクギは幸せでした。

 

今日もニオーは切り株に腰掛け、娘に子どもの頃の思い出話をしています。

切り株だけになったフクギ、それでもとても幸せそうです。

 

​海賊エークとお宝探しの大冒

リュウキュウマツのはなし

むかしむかし、八重山にはエークという名の船長率いるハーリー海賊団という有名な海賊団がありました。

エークは祖父である偉大な海賊サバニからハーリー海賊団を受け継ぎ、若くして皆の信頼を勝ち取った優秀な海賊です。

そんなハーリー海賊団の船はリュウキュウマツで出来ていましたが、まだ若い木を使ったためにいまいち木のしまりが良くありません。

たった数年しか使っていないのにあちこちゆがんできてしまいました。

ある時エークはサバニから聞いた話を思い出しました。

「南の果ての海にはな、「イシャナギィラ」と呼ばれる伝説の島があるんじゃ。そこには樹齢1000年を超え、赤く輝くリュウキュウマツがあると言われてておる。そんな木を使って船を作ることが出来たら、さぞ頑丈で素晴らしいものができるじゃろうなぁ・・・」。

この話を思い出したエークは、仲間とともに伝説のリュウキュウマツを探しに行くことにしました。「おもかじいっぱーい!」

「「「ヨーソロー!!!」」」

大渦潮や嵐による大波に幾度となく行く手を阻まれながらも、ハーリー海賊団は進んでいきます。そしてある日ついに目の前に島が見えました。

航海士が船員に向かって叫びます。

「見えたぞー!!あれがイシャナギィラだー!!」

「やったぞー!!」「やっと着いたぞー!!」

さっそく海岸に船を近づけ、上陸します。

辺りは豊かに木々が生い茂り、野生の動物たちの鳴き声がにぎやかに響いています。

ハーリー海賊団はさっそく伝説の木を見つけるために島の中を探検することにしました。

途中見たこともない模様の頭が三角のヘビが現れましたが、船員たちはひるむことなく進んでいきます。

「よし、空がだんだんと暗くなってきたし今日のところはこのあたりで休むとするか。」

ハーリー海賊団はひとまず洞窟で一夜を明かすことにしました。

すると、なんと洞窟の中には先客がいたのです。

エークのライバルであるパネーラ船長が率いるマツクイ海賊団です。

「ずいぶん遅い到着だな、エーク。」

「お前が何でこんなところにいるんだ、パネーラ!」

「決まっているだろう。お前たちハーリー海賊団が伝説のお宝を探しに行くっていう話を聞いてな、オレたちが先に頂いてやろうと思ったのさ。」

どうやらマツクイ海賊団も伝説のリュウキュウマツを狙っているようです。

そうはさせまいとエークはパネーラに攻撃を仕掛けます。

それに続いてほかの船員たちも次々と武器を手に戦いを始めました。

戦いの末、勝ったのはハーリー海賊団でした。

「クソー覚えてろよ!次こそはコテンパンにしてやるからな!」

パネーラたちは情けない格好で逃げてゆきました。

 

ハーリー海賊団が気を取り直し洞窟の中を進んでいくと、ふと洞窟の奥に赤い光を見つけます。

「あれはなんだ?」

「よし、近くまで行ってみるぞ!」

辺りを警戒しながら赤い光の方へ歩いていくと、洞窟の出口にたどり着きました。

出口の先には大きな森が広がり、その中に赤く輝く大きな大きな木が見えました。

「これだ!これが伝説のリュウキュウマツに違いない!」

船員たちは大喜びです。エークもその木の力強さにとても感動していました。

その日、ハーリー海賊団は森の神様に感謝のお酒をささげる儀式を夜遅くまで行いました。

それからエークたちは何日もかけて太い幹を切り倒し、大きくて丈夫な船を作りました。

木の芯に近い部分は脂を多く含むようで松明にすると長い時間使えて大変重宝しました。

 

それから無敵の船に乗ったハーリー海賊団が世界の海でその名を轟かせるようになるまでにそれほど時間はかかりませんでしたとさ。